2011年10月23日日曜日

埼玉農業大賞ベンチャー部門大賞に「桂ファーム」!(加筆)














  第2回埼玉農業大賞が20日に発表され、農業者の友人である栗原桂一代表の有限会社・桂ファーム(養鶏業-入間市)が、「農業ベンチャー部門」の大賞に輝いた。うれしい限りだ。
大賞は2部門に分かれ、「農業地域貢献部門」の大賞は本庄市の「ひびきの南部選果機利用組合」である。ちなみにベンチャー部門の優秀賞は有限・オオクマ園芸(三郷市)、高荷正行氏(深谷市)、地域貢献部門の優秀賞は北川辺米の会(加須市)、高橋博氏(さいたま市)である。11月19日午前11時から加須はなまき水上公園で表彰式が行われる。

  桂ファームは今年夏に、某農商工連携人材育成事業の際にも30人近くを案内し、栗原さんから経営の歴史と実態について話をしてもらった。HPも開かずの宣伝を嫌い、「隠れたベストセラー」ともいうべき存在だが、実際は付近の駿河大学との産学協同事業や各種の委員会にも関係、地元小学校の1~6年の某科目も担当するなど地域にも貢献し人脈は広い。

   また日に3冊の本を読んだ時代もある読書家で、すこぶる広い広い知識の持ち主でもある。これが「考える農業」「ゆとりある農業」を生み出す原動力になったように思う。

   目立ちにくい幹線道路から300mも入った奥まった立地で、常時25,000羽の養鶏を飼い、そのすぐ脇の施設で手選別し、生産タマゴの90%近くを農場付帯の直売所で売っている。品種は赤玉のポリスブラウンが90%、白玉のジュリアが10%。駐車台数は7台ほどだが、1台来て帰れば、次の1台が来るといった繁盛ぶりである。信用ある販売をすれば、口コミで広がり、多少立地が悪くとも客が来ることを教えてくれる。

              

   赤玉の直売価格はM以上が1kg480円、S以下が400円、B級品350円。白玉はM玉以上が350円、S以下が300円だ。総務庁「家計費調査」によれば、1kg平均の小売価格は269円であり、M玉は、その1.78倍になる。流通コストの削減分+単価の差があいまって、通常の25,000羽経営の平均販売額の数倍の売上高になる。選考委員の先生もその所得の高さにびっくりしたはずである。(高騰時の令和5年4月はM玉650円)。

   実際は、農水省の経営指標をアレンジした当方作成の規模別連続経営指標からすると、同規模=25,000羽の養鶏に比し粗収益は2.7倍にもなる。この数字は、生産者手取り価格をそのまま反映している。新聞報道によれば、H23年次の生産者手取り価格は中間流通経費も多いため1kg168円である。これに2.7倍を掛けると1kg454円になる。桂ファームの直売価格はこれに近いののになっている。いかに生産-直売の6次化効果が高いかを教えてくれる。

   安全で良い餌、良い環境で育て、美味なタマゴを生みだし、当方も購入して行きつけの喫茶店の馴染み客にもに数回食べてもらっているが、評判はすこぶる良い。「娘への土産にしたいから買ってきてくれ」のオーダーも何回かあったほど。

    すでに過日の「鶏卵」の項でも4点ほど書いたが、再度その理念を吟味すると7つほどの特徴が浮かびあがる。
①直売で売れる量だけ飼い、いたずらな規模拡大をしない・・・付加価値販売に沿った適正規模。
②鶏舎に余裕を持ち、オールイン・アウトの時間差を広げ、充分な消毒をする・・・鶏の安全の確保。
③1段か2段式のケージ(写真)でストレスがなく衛生的な快適環境を維持する・・・産卵環境の維持。
④現在のケージはさびず、鶏舎も20年以上持ち、無駄な投資をしない・・・償却費等の固定費削減。
⑤手選別で割れ玉も出ないが、鶏糞乾燥ハウス、鶏糞発酵機も備えその堆肥化・販売もしている・・・無駄な生産品を出さない。
⑥タマゴを1kg、2kg、4kgで売る場合、某飲料メーカーの空き箱をカットして使用・・・無駄な経費省く。
⑦ファークリフトを使った除糞やバケットローダーを使った鶏糞の切り返し(発酵のための)等の実施・・・省力すべきところは省力する。鶏糞の収入は

    だが、改めて長時間にわたり話を聞くと、一般常識と大いに異なる経営哲学を持っている。つまり、①シンプル、②スロー、③スモール、④ローカル、⑤アナログ、⑥アバウト、⑦ローテク、⑧スマイルで、「全体としては非効率と思われることをやって、最終的に効率が上がるもの」・・・と言う。
   当方も充分理解できていないが、
①養鶏一筋でかつ直販売一筋。かつムダな投資をしないシンプルな経営のほうが成果を達成しやすい。
②短期的な視野でなく長期的な視野を持ち、急がず考えながらスローに着実に最大の利益を追及する。
③質を高め、小さくても所得、利益の上がる経営を良しとする。
④都市近郊とか、遠隔地といた立地に見合った経営戦略で臨む。
⑤⑥物事を白黒と割りきらず、「あいまいさ」を残しながらアナログ的に、着実に基礎をしっかり築く。
⑦良い商品を作るには、労力を掛けるべきところは掛け、ハイテク(機械的管理)に走らない。
⑧最後には家族・従業員・顧客・地域が共に豊かになり、喜び合える経営になる。
・・・ということを、強調しているように思う。

 鶏糞の収入は売上全体の0.35%ほどにしかならないが、利用してくれる畑作農家のため、便利に散布できるようマニアスプレダーも購入し、無料貸し出ししている。軽4輪で運べるものだ。

   家族と社員5人、パート・アルバイト12人が1昨年までだが、昨年から息子さん、娘さん夫婦も加わり、社員7人、パート・アルバイト6人(実質3人)になった。従業者も充分確保されており、労力的にゆとりもあるため、畑を借りて新たな夢に挑戦しようとしている。24年の夏には、小麦の収穫の手伝いもさせてもらった。

 栗原さんの偉さは、「畑作は素人」として、その技術習得のため、栽培関係の塾に通ったことだ。「たえず謙虚であれ。そして急がず学び、ゆっくり実践し、目先の利益に走らず、信用を重んじ着実にお客を獲得していく」と、新事業の展開についても抱負を語っている。

故・栗原桂一氏を偲ぶ

 桂ファームの栗原社長は令和2年の8月に亡くなられた。6月だったか、電話に出られた栗原さんは「眼底の癌にかかり片目を取るはめになった。慣れればさほど不自由でもない」と元気な声が返ってきた。だが「一度会いに行こうか」と言うと、なぜか「今は止めておきたい」との回答。

 暮れにお歳暮の注文に行ったら訃報に初めて接し愕然とした。「農業界のエース逝く」である。私は昔、農業雑誌の記者であり、5年前までは農業コンサルタントだった。ために農業界の優秀な経営者にもたくさん会ってきたが、すぐれた実践者であり、同時に優れた実戦哲学を持った人はそう多くなかった。若いころは3冊の本を並べて交互に読んだ・・・と言うくらいの勉強家であった故に、広い視点に立った経営哲学が構築できたのだと思う。

 謙虚であり、私が50年も前に農業雑誌社「家の光」を独立する時、名刺がわりに書いた農業の本質論から説き起こし発展策を書いた「農業革命への提言」と言うタイプ打ちの小冊子を5年ほど前に渡したが、先の電話の際も「あれは大したものだ。今も大切に保管してあるよ」と言ってくれた。私の貴重な理解者が1人亡くなり淋しい限りである。




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